名作『アパートの鍵貸します』『ティファニーで朝食を』をボブ・フォッシーが手掛けたら「こんなに下世話になりました」的な作品でしたな。下世話だけど決して下品にならない絶妙なバランス感覚は流石ボブ。
というかブロードウェイの映画化はしばしば「ただ舞台をそのまま映画にしただけ」と見なされがちです。しかし、『キャバレー』はそのようなミュージカル映画とは微妙に異なる印象を与えます。
1939年のクリストファー・イシャーウッドの小説『さらばベルリン』、1951年の舞台『私はカメラ』を基に舞台化された1966年のケンダー&エブによるブロードウェイ・ミュージカル『キャバレー』を大まかにもとにし、メトロ・ゴールドウィン・メイヤーが映画版を製作、1972年に公開された(舞台版とはエンディングが異なる)。
どこらへんをミュージカル映画と定義付けるのはようわからんが。演出の妙ですな。流石ボブ。
とにかく主演のライザ・ミネリの魅力に尽きる。チャーミングでおしゃべり。お母ちゃんのジュディ・ガーランドとは対照的な濃ゆい顔だち。ケバイ。ケバすぎる。でもそれ故に舞台で映えますな(「映え」ってやつ?)。
彼女は舞台版でも主役を務めるほどのはまり役だと思われがちですが、実はオーディションで落選したそうで。歌も上手なのに残念だなぁ。ちなみに、舞台版でMCを務めたジョエル・グレイだけが同じキャストです。
本作はミュージカルという枠でなく、舞台女優の日常をドキュメント的に描いた新しいミュージカルの試金石だった。従来のミュージカルのように音楽と歌を一体化させ、役者側から一方的に観る者へ訴えるというスタイルではなく、ステージを観客席から眺めるという客観的なカメラワークのスタイルが、この映画のライヴ感を演出している。したがってミュージカルと思って観た人は普通の映画を観ているようにしか見えないのだが、これも時代背景で映画の在り方が変わりつつあったところだろう。ミュージカルが苦手という人にも、取って付けた感が排除されたこのスタイルなら親近感が持てるかも知れない。
そうそう!確かに「これ、ミュージカルなんだけど思てたのと違う」なんですよ。コレはコレで好きな部類なんですが。だから「ミュージカルが苦手」な人にも大丈夫かもしれない(大元はドラマだし)。
この『キャバレー』は第45回アカデミー賞において計8部門受賞しただけあって流石ボブとしか言いようがないw(ノミネートは10で最多)。
ちなみにその年の作品賞、脚色賞はどちらも『ゴッドファーザー』。
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掴みはオッケーな作品でした。でもちと長い(汗)。