tohoシネマズさんのごぜじゅう企画で鑑賞。さすが愛すべき変わり者キューブリック!『フルメタル・ジャケット』とは違う皮肉さ。
ある映画を撮ってもらおうとプロデューサーらが事務所に行ったら秘書に何もない部屋に通されインターホン越しで会話したというエピソードもあるくらいだからキューブリックって変わってますよねw。
やはりキューブリックは究極の皮肉屋監督さんなんで「この作品は食指が動かない」という人もいるのかも。感性は人それぞれやし。自分は『フルメタル・ジャケット』が大好きなんですが『博士の異常な愛情』(サブタイトル長すぎやろ)のラストも好きなんですよ。というかアレにはブッ飛んだ。
あらすじを読んだだけでもそのヤバさがダダ漏れ状態の『時計じかけのオレンジ』だが、そもそも原作からしてヤバい。
どのくらいヤバいかというと、セックス・ピストルズのポール・クックが「俺はあんまし本は読まないんだけど、『時計じかけのオレンジ』はクールで超好きだぜ!オーイェー!」と公言しているくらい、ヤバい。
ヤバイ人が「ヤバイ」言ってるくらいだから相当ヤバイのだろうて(出川の「ヤバいよヤバいよ」とは比べ物にならないくらい)。そんなヤバイ原作をヤバイキューブリックが調理しちゃったもんだから相当ヤバイのだろうとは容易に想像つきますね。
さて私は何回「ヤヴァイ」言ったでしょう?
原作者が怒ったキューブリック作品は『シャイニング』が有名ですがこの『時計じかけのオレンジ』もそうなんです。でも微妙に違うの。それは『時計じかけの~』原作はあまりの救いようのなさに出版社から「不良少年アレックスを更正させろ」と言われ最終章に付け加えたそうです。でもミスで最終章が載らずに出版したのですよ。
当然キューブリックは最終章知らずに脚本書いたのですから原作者が怒るのはお門違いかと(まぁ、「でもキューブリックやしな」と思われなかったかw)。
そして、この映画は公開後まもなく呪われた映画となってしまう。
浮浪者を殺害した罪に問われた16歳の少年が、『時計じかけのオレンジ』の影響を受けていたことが弁護士によって明らかになってしまったのだ。殺人事件を喚起した張本人ということで、キューブリックの元には数え切れないほどの脅迫状が届くようになる。
家族の身にも危険が及ぶと案じたキューブリックは、イギリスでの上映を差し止めるように要請。以来キューブリックがこの世を去る1999年に到るまで、『時計じかけのオレンジ』は26年間に渡って劇場公開が禁止された「幻の映画」となってしまう。
映画は影響力大きいですからね(クロサワ作品『天国と地獄』の身代金引渡しも真似されたことあったな)。模倣犯出やがったか。家族の身にも危険が及びそうなくらいだったのね。
言語学者でもあったアンソニー・バージェンスによって編み出された若者言葉「ナッドサット」。英語にロシア語を混ぜ合わせた架空の言語だが、『時計じかけのオレンジ』には、このナッドサットが隅から隅まで横溢している。
近未来の若者言葉だったのかな。何言っているのかよくわからなかったけど格好良かったぞ。みんな、ドルーグ(仲間)だよ!
★★
ま、それはともかく。映画の感想ですが。古き良き70年代の作品なんで性描写は「あけっぴろげ」感ありました。あっけらかーんとしていて。モザイク?なにそれおいしいの?みたいな。そういや『キャリー』の冒頭シャワーシーンはおっぱい出まくり状態だったな。
アレックス(マルコム・マクダウェル)が仲間に裏切られ刑務所に入るがずる賢くて要領のいい彼を「こいつ、更正しないな」と疑ってる看守がツボ。職業柄よく人を見てるな。というか。
クズは周りから何言われようと自分から改心しない限りはクズなんだよ。ジャン・バルジャンのような立派に更正するのはホンのひと握りなんだよ!そんな皮肉さがにじみ出てます。
アレックスが出所してからの展開がキューブリックワールド全開でよござんす。家に帰ったらママの服装がサリーちゃんみたいだったw。ちょっとツボ。
それからなんやかやあって。昔のヤンチャ仲間が今や立派に更生して警察官になったのはびっくり。でも昔のこと思い出してアレックスを痛めつけるのね(職権乱用や)。でもクズやし。人ってそうそう簡単には変わらないのだよ。
頭を掴まれ水槽に沈められるシーンは「やたら長いな」と思ってたらマクダウェルの呼吸用にポンプが用意されていたそうで。でも撮影時は故障してたというおまけ付き(演技じゃなくてホントに窒息状態)。
あの拷問みたいな新療法の実験シーンでは瞼をクリップみたいなのに固定するのだけど。それがズレて角膜に傷つけちゃったりしたそうで。カラダ張ってるなぁ。
江角マキコが『ショムニ』での嵌り役ゆえにそれ以降は姉御肌な役柄ばっかりだったように、マルコム・マクダウェルには不良少年役のオファーしかこなくなり彼自身ウンザリしてたみたいで。
『スーパーマン』のクリストファー・リーブもあまりの当たり役にそれ以降パッとしなかったしロビン・ウィリアムズは演技達者なのに一時期「大人子供」みたいな役柄多かったしなぁ。俳優さんとしてはいろんな役に挑戦したいだろうて。
ちなみに『冷たい熱帯魚』のでんでんは「いいひと」役が多かったために犯罪者役を二つ返事でオッケーしたそうですw。いやぁ、あれは凄かった。
★
満足度高し。パーセンテージ下げてるのは「普通」評価だけかと思いきや「残念」もあったのか。キューブリックやしクセがすごいのかな。
SNSでは「共感」をベースとして成り立ってるが『時計じかけのオレンジ』は共感できる要素が1ミリもないでしょうて。ま、たまに「昔は俺もこんな無茶してたなぁ」と遠い目をするおじさんがいるかもしれないが。というかダメ、絶対。